台湾独立建国聯盟日本本部 中央委員 林 省吾
プレミア12世界野球で台湾が優勝した。キャプテンの陳傑憲(チェン・チエシェン)は試合を決定付けるホームランを放ち、三塁ベースを回った際、カメラに向けて、ユニフォームの胸元の、目には見えない、あの名前をアピールした。
TAIWANである。
台湾がチャイニーズ・タイペイになった理由
ご存知の通り、台湾の選手は世界の舞台ではチャイニーズ・タイペイとしか名乗れない。1979年に名古屋で開かれた国際オリンピック委員会(IOC)の執行委員会では、1972年のアルバニア決議案で国連から追放された蒋介石の中華民国政権をIOCに残すために、「台湾」や「フォルモサ」の名前が提示されたが、中国の正統政府と自認する中華民国がそれを拒否した。チャイニーズ・タイペイ(中国台北)という、中国ルーツを残した名前を選んだのも、台湾を殖民する中華民国のエゴでしかなかった。
二つの中国の争いに巻き込まれた台湾は、民主化以降も中華民国の負の遺産に悩まされ、未だ国際試合で「台湾」を名乗ることができず。台湾人はさぞご立腹だろうと思いきや、実は必ずしもそうではない。
台湾隊?中華隊?
国際的には「チャイニーズ・タイペイ」となった中華民国政権は、中国と区別するため、国内向けの発信は「中国台北」ではなく「中華台北」、略して「中華隊」という呼び名を意図的に使用することになった。信じがたいかもしれないが、殖民教育があまりに成功したお陰で、2024年の今も、今回の野球台湾代表を「中華隊」と呼ぶメディアと台湾人が9割を占めるほど、中華隊は台湾人にとって慣れ親しんだ名称である。
一部「中華隊」の可笑しさを認識した台湾人は「台湾隊」の使用を提唱し、2018年に「東京五輪に台湾として出場する」案を国民投票にかけたが、逆風は凄まじかった。反対の理由は主に、「政治をスポーツに持ち込むな!」、「チャイニーズ・タイペイを名乗らないと選手の出場資格がなくなる!」など、根拠のない主張ばかりだったが、何人かの選手が反対を表明したことで、反対55%で否決された。
台湾人は意図していなかったが、この国民投票結果は、国際社会に「台湾人は台湾を名乗りたくないのだ」というメッセージとして伝わった。
しかし、今回は選手達自ら「TAIWAN」をアピールした。例えばアメリカ戦でホームランを放った潘傑楷(パン・チエカイ)選手は記者会見で「チャイニーズ・タイペイ」と紹介された際に、「こんにちは、台湾からの潘です」と訂正した。ユニフォームに書けないTAIWANという文字をチームパーカーにデザインし、試合中を除いて常に着用した。これら選手達の行動に台湾人は感動し、SNSでは「待ってました!」「涙が止まらない」との反応が多数あった。件のTAIWANパーカーは即座に完売し、追加注文の納品は2025年下半期まで待たねばならないほどだ。「TAIWAN」はやっと台湾人のコンセンサスになりつつあるようだ。
最後の一歩は心にある敵を直視すること
一方、台湾人は習慣という名の「自身の中に存在する敵」と戦うべきときにも直面した。台湾隊が優勝した際に、感激したファンと選手達が掲げた旗は、かつて台湾人を迫害した政権が残した青天白日満地紅旗である「中華民国旗」であった。残念ながら、殖民されてきた多くの台湾人は何も違和感を感じないのが現状である。直訳すると「Team China」になる「中華隊」という名称もそうだ。TAIWANをアピールしてきた選手達でさえ、自称する際に中華隊を使用してしまうこともあった。
体と心に染み付いた中華民国という枷鎖を解かなければ、台湾人は真の台湾人になれない。我々を縛り付ける鎖は、もはや物理的には存在しない。心の鎖を解除できるのは、台湾人自身に他ならないのだ。