【近藤大介・『週刊現代』特別編集委員「蔡英文総統『圧勝』の現場で目の当たりにした『台湾人の中国離れ』」(現代ビジネス:2019年1月14日)】
謝謝、謝謝! 記者の皆さん、私たちの勝利の会見に来ていただき、ありがとうございます。
今日、投票に行ってくれた人に感謝する。誰に投票したとしても、民主と自由の国家・台湾を世界に示したのだから。韓国瑜候補にも宋楚瑜候補にも感謝する。
今日、台湾人は、投票という行動によって、私がこの4年間やってきた方向は正しいのだということを示してくれた。そして今後4年間、自信を持って、台湾を正しい方向に導いていくと保証する。
台湾人民は、さらに良くなり、さらに多くのことを成し遂げていくことだろう。就業を増やし、経済や教育を良くしていく。改革を続けて、台湾を発展させていく。国家も安全にしていく。
私は台湾人民を代表して、台湾の民主の証人になってくれた皆さんに感謝する。私たちは国際社会に向けて、民主の価値を示したのだ。
中華民国台湾は、国際社会の仲間入りをして、国際社会とともに発展していきたいのだ。われわれは、独立した国際社会のメンバーなのだ。われわれを国際社会のパートナーにしてほしい。台湾は主権と民主を持っているのだ。
この3年間というもの、(中国との)ボトムラインを守ってきた。中国のプレッシャーに負けないできた。『一国二制度』の政治的圧力、台湾海峡の軍事的圧力……。これからも民主の力によって、保衛していく。平和的な政策は変えないが、それには両岸双方が責任を持たねばならない。
平和・対等・民主・対話の4つが、唯一の道だ。平和とは、北京が台湾への武力行使を放棄すること。対等とは、双方が互いの存在を認め合うこと。民主とは、台湾の前途は2300万台湾人民が決定すること。対話は、双方が膝を交えて、未来の関係発展について話し合うことだ。
北京当局は、民主の台湾は動かないことを知るべきだ。今日の選挙の結果を認めるべきだ。それが両岸関係の答案だ。
選挙は終わった。これからは、すべての人が平常に戻ろう。団結して、民主を進めていこう。明日からすぐに努力して仕事にとりかかる」
テントの中は、外の支持者たちの喧騒がウソのように、静まり返っていた。われわれ記者団は、蔡総統のひと言ひと言を聞き漏らすまいとして、耳を傾けていた。蔡総統が言葉を区切るたびに、傍の男性が英語に通訳した。
それにしても、「勝者の言葉」というのは、重みがあるものだ。まるで蔡総統の言葉の背後で、「817万人のこだま」が聞こえてくるようだった。
◆記者会見の質疑応答要旨
BBC記者:今回の選挙結果に、香港のデモは影響したと思うか?
蔡総統:それは当然、あったと思う。われわれは香港のような「一国二制度」は受け入れない。台湾総統は、台湾人の民意に従って行動していく。そして、台湾人民の期待に応えていく。台湾の主権を守っていくということだ。
これからは両岸が、関係改善にむけて、共に努力していくべきだ。良心に基づいて、対話を始めるべきだ。
台湾東森新聞記者:ニューヨークタイムズが書いていたが、今回の選挙は、「親米の民進党」対「親中の国民党」という構図だったのか?
蔡総統:私が考えているのは、「自由・民主の国家」を目指す者と「自由・民主のない国家」を目指す者が闘った選挙だったということだ。
いずれにしても、先ほど述べた4つのこと(平和・対等・民主・対話)が大事だ。これから両岸で「良心の対話」を目指していきたい。
ニューヨークタイムズ記者:中国の強い圧力の中で、今後、国際社会とどう付き合っていくつもりなのか?
蔡総統:たしかに中国の圧力はとても大きいが、この3年余り、われわれは国際社会のパートナーと協力してうまくやってきた。
また、台湾は世界に貢献している。地球温暖化への取り組みでも深く協力している。
われわれは今日ここに、自由で人権を重視する国家であることを、世界に示した。今後は、アメリカを始め国際社会の国々、それにEUなどとも、協力関係を拡大していきたい。
台湾は、この上なく安全な国だ。インド太平洋の国々とも協力していきたい。
政治問題だけでなく、文化面でも科学技術面でも、どんな分野でも協力できる。台湾は自由で開放された国家なのだ。
台湾記者:これほど圧倒的な勝利を収めることができた勝因は何だったのか?
蔡総統:それは、この4年近くやってきたことが評価されたことと、次の4年への期待からだと思う。あと4年で、改革を成し遂げる。第一に、金融サービスセンターの完備、第二に、子供を始めとするケア・プロジェクト。第三に、国家経済の発展。第四に、台湾のパワーを国際的に示し、地域の国際的な活動に参加していくことだ。
NHK記者:中国の圧力をどう考えているか?
蔡総統:中国からの圧力は、ますます大きくなってきている。中国は「一国二制度」ではなく、台湾人の民意に耳を傾けないといけない。国際的責任を考えながら、「文攻武嚇」(言葉で攻めて武力で威嚇する)を止めて、平和で安定した台湾海峡にしていくべきだ。
台湾の主権、自由、民主。これらは今後4年、変えない。そのことを基本にして、双方が責任を持って対話を始めるべきだ。双方が良心に則って、健全な両岸関係を築いていくべきだ。
北京は、台湾の民意を尊重すべきだ。そうしたら対話はできるだろう。
台湾記者:「双贏」(ダブルウイン)となったが、今後の内閣はどうするのか?
蔡総統:この一年間、蘇貞昌(そ・ていしょう)行政院長には、深く感謝する。国内の政策も多く実現できたし、国際社会への貢献も増えた。米中貿易摩擦の影響など、難問山積の中、引き続き安定した内閣を築いていきたい。
◆1月11日の記者会見後における蔡英文総統の野外演説
謝謝! こんばんは。今晩は台湾人の夜だ。この自由の土地で、民主を守っていこうではないか。
先ほど国際記者会で、私の心情を述べた。台湾人は世界のメディアがこの地に参集している中で、勇敢な態度を示したのだ。私たち一人一人が「主役」なのだ。
今日は嬉しいことに、香港の朋友たちも来てくれた。中華民国台湾は、ここにある! そして私は、この地のリーダーであることが、最大の喜びだ!(「蔡英文!」の大合唱)
韓国瑜・宋楚瑜の両候補にも感謝する。二人は台湾の民主を、さらに一歩進めてくれた。たとえ国民党が勝っても、親民党が勝っても、同じ民主だ。これからは同じ台湾人として、団結していこうではないか。
改めて、皆さんが私にくれた信任と支持に感謝する。この一年は、本当に苦しかった。だがもう安心した。
何人来たのか分からないが、今晩は実に多くの人たちが、ここへ集まってくれた。もう遅いし、帰って寝ましょう。
私たち民進党は、一度失敗した。そしてその後、こうして復活した。民主と自由、そして改革への努力がなければ、今日の姿はなかったでしょう。
台湾人民に対して、最大の感謝を示したい。すべての若者に感謝する。
今日の投票のために南部から台北へ来て、帰りのチケットが買えない人もいる(投票は戸籍のある場所で行わねばならないため、台湾人の「民族大移動」が起こった)。投票のために、皆が頑張った。これが民主と自由というものだ。
あなたたちは、勇敢な台湾人だ。皆々様に、いまここで奏でている音楽隊も含めて、感謝を申し上げる。
だが今日は、まだ一里塚に過ぎない。あと4年で、さらに素晴らしい国にしてみせる。これから4年、私は台湾人のために奮闘する。
その4年、ともに歩んで行く副総統が彼だ(横の頼清徳次期副総統を指す)。台湾は永遠に、あなたを必要としている(一度は蔡総統を裏切った頼次期副総統は人気がなく、代わりに庶民派の蘇貞昌行政院長へのコールが沸き上がる)。
今日は私に投票しなかった人にも感謝する。われわれは皆、台湾人だからだ。彼らに対しては、4年後には私たちに投票してもらえるよう頑張っていく。
過半数をいただいた民進党は、絶対に裏切らない。厳粛に、一つ一つの政策を実現していく。改革を断行していく。
(中国は)民族の声望、台湾人の声望を聞いたろう。今日の結果が台湾人の選択だ。両岸関係の改善には、双方に責任がある。民主的な対話が必要だ。双方が発展するようにしていこうではないか。
選挙は終わった。これからは団結の時だ。明日、太陽が東の空から上がったら、また皆で努力しよう。団結して、すべての困難を乗り切ろうではないか。
台湾には民主がある! 台湾には自由がある! 今日の2300万人の団結に、全世界が感動している!