【論説】台湾の命運決める2014台北市長選挙【九合一選挙】
多田恵
「国民党が倒れなければ、台湾は良くならない」というキャッチフレーズが広がっている。「経済を良くする」という甘い言葉につられて国民党に政権を戻してしまったことが、経済どころか国家の存立を危うくしているというのが台湾人の認識である。そのひとつの表れが「自分の国家は自分で救う」ことを訴えた3月の「ひまわり学生運動」だった。
外来政党である国民党以外の政党結成が禁じられていた時代、民主化を目指す勢力は「党外」と呼ばれていた。蒋経国総統の死去により、台湾人である李登輝氏が総統に昇格し、国民党を掌握してはじめて、立法委員(国会議員)の選挙や総統直接選挙が実施され、2000年に政党交替を実現した。しかし立法院では一貫して藍陣営(国民党中心)が優位であり、緑陣営(民進党中心)は無所属をあわせてもこれを覆すことはできず、厳しい政権運営を強いられ、国民党が政権に返り咲くことを許した。この国民党は中国と結託して自らの利権を守るという戦略をとり、台湾が中国の内国化することを許している。
台湾人は最大限に団結すれば総統は取れるのだが、立法院の議席にはなぜそれが反映されないのか。利権や国民党が独裁時代に社会の隅々に張り巡らしたネットワークが指摘されている。特に、地域に密着している村長・里長(7853人)が有権者の投票行動に影響を与えうる。
2016年に行われる次の総統選挙で台湾人が総統を取り戻さなければ、台湾人の生活の品質はますます低下し、完全に中国に飲み込まれてしまう。今年11月29日(土曜)実施予定の「九合一」全国地方選挙(8月21日告示)で国民党に打撃を与えることができるかどうかが台湾の生死を決する。このことは去年来日した蘇貞昌・民進党主席(当時)も強調し、民進党は現在、挙党一致して台湾団結聯盟や無所属と選挙協力を着々と進めている。特に注目されているのは人口の約7割をカバーする6大都市の市長選挙である。このうち国民党が台北・新北・桃園・台中、民進党が台南・高雄を握っているが、現在、緑陣営が台北と台中を取れる可能性が空前の高まりを見せている。特に国民党の牙城で、首都として情報発信の中心でもある台北を獲得できれば、総統選挙に向け雪崩のような効果があると期待される。
台北で緑陣営が一致して応援するのは救急医療・臓器移植の権威でもある台湾大学の柯文哲(か・ぶんてつ)教授(55)だ。対抗馬は国民党名誉主席・連戦の息子・連勝文(れん・しょうぶん44)。ほかには映画監督の馮光遠(ふう・こうえん60)が名乗りを上げている。現地紙『リンゴ日報』の調査結果では、それぞれ45.8%、32.4%、9.9%、『自由時報』では42.9%、23.3%、26.7%の支持を集めている。柯教授は7月には米国および英国の事実上の駐台大使の訪問を受けた。
柯教授の発言は台湾のメディアではすでに長い間、注目されていて、誰からも愛されている。昨年末には在日台湾同郷会などに招かれて京王プラザホテルで講演会を行い、台湾社会が抱える病を治したいという情熱を訴え、中国に怖気づけば死の谷に落ちるのは台湾だという見方を示した。一方、対抗馬の連勝文は2月に父親と共に訪中し中国国家主席・習近平に会っている。連戦の派閥は中国の台湾における有力な駒なのだ。
台北市長選挙は単なる市長選ではなく、台湾の運命を決める天下分け目の戦いなのである。
( 2014.8.18 )